経審の点数を徹底解説!
「公共工事のチャンスが広がる!? 経営事項審査とは」の記事では、経営事項審査(経審)が公共工事の受注に不可欠であることをお伝えしました。『経審の点数(P点)を上げれば、より大きな工事に挑戦できる。』それはもちろん事実です。
しかし、闇雲に点数アップだけを追い求めるのは、必ずしも賢い選択とは言えません。
この記事では、経審の点数を決める仕組みを詳しく解説し、あなたの会社の経営方針に合わせた「P点の活かし方」をお伝えします。

そのためには、まずP点の仕組みを理解することが不可欠です。ここではP点を構成する4つの評価項目(完成工事高、自己資本額、技術職員数、その他)を詳しく解説していきます。
経審の点数を決める5つの要素

経審のP点は、会社の総合力を評価する完成工事高(X1)、自己資本額・利益額(X2)、経営状況分析(Y)、技術職員数・元請完成工事高(Z)、その他(W)の5つの要素から成り立っています。
それぞれの要素がどういったものでどう点数に反映されるか、Y点以外の4つの要素について詳しく解説していきます。

Y点(経営状況分析)だけは、国土交通大臣の登録を受けた「登録経営状況分析機関」に先に申請し、分析結果通知書を受け取る必要があります。このように申請のプロセスが別個であるため、Y点については次回の記事にて解説いたします。
1. 完成工事高(X1):実績が点数に変わる!

完成工事高とは、ある会計期間(通常は1年間)内に工事が完了し、引き渡しが済んだことによって売上として計上された金額の合計です。
経審では、この完成工事高の額が、P点(総合評定値)を構成する要素の一つであるX1評点として評価されます。
以下のポイントに注意しましょう。

原則として、直前2年または3年間の平均完成工事高が評価の対象となります。設立間もない会社や、実績が少ない会社は、実績がある期間を選んで平均値が計算されます。
完成工事高は、建設業の業種別(建築一式、土木一式、大工工事、電気工事など)に区分されて評価されます。例えば、建築一式工事の点数を上げたいなら、その業種の実績を多く積む必要があります。
経審のX1評点においては、元請け工事として完成させた金額も、下請け工事として完成させた金額も、基本的に同じように評価の対象となります。
・工事経歴書(建設業法に基づく)
・直前3年の各事業年度における工事施工金額(経審様式)
・工事請負契約書・注文書・請求書などの写し(工事実績の裏付けとして)
・消費税の確定申告書の写し(金額の裏付けとして)
なぜ完成工事高が重要なのか?
完成工事高が多いということは、会社が安定的に多くの工事を受注し、それを期日通りに完了させ、収益を上げていることを意味します。発注者(国や自治体)にとっては、完成工事高は「この会社には、これだけの規模の工事をこなす能力と実績がある」という信頼の証となるため、公共工事の入札において重要な判断材料となります。
完成工事高(X1)は、P点の中で25パーセントと最も比重が高く設定されている要素の一つであり、P点アップを目指す上で最も重視すべき項目の一つです。

売上だけでなく「請負契約書」や「注文書」などの証明書類が揃っているかが重要になります。日頃からの書類整理が、実は点数アップに繋がりますよ。
2. 自己資本額・利益額(X2):財務の健全性を証明する!

自己資本額・利益額(X2)とは、経審において企業の財務体質の健全性と収益力を評価するための項目です。経営が健全であるほど、高い評価につながります。
このX2評点は、主に会社の貸借対照表(バランスシート)と損益計算書のデータを使って計算されます。
また、以下の2つの要素から構成され、会社の「お金の体力」と「稼ぐ力」を客観的に数値化します。

自己資本額とは、会社の総資産から負債(借入金など)を引いた残りの額、つまり返済の必要がない、会社自身の資金です。貸借対照表の「純資産の部」の合計額にあたります。
負債に頼らず、どれだけ自前の資金で経営を支えているか(財務の安定性)を測ります。自己資本額が大きいほど、外部環境の変化や損失に耐えうる力があるとして高く評価されます。
経審で評価される利益額は、主に利払前・税引前・償却前利益をベースに、過去2年間または3年間の平均値が用いられます。
支払利息や税金、減価償却費などの影響を除外した、本業でどれだけ利益を生み出す力があるか(収益力)を測ります。利益額が大きいほど、事業が順調で将来性があると評価されます。
【自己資本額】
・財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)
【利益額】
・財務諸表(主に損益計算書から算出)
【共通】
・法人事業税納税証明書または事業報告書(法人の場合)
※ X2を算定する根拠となる「財務諸表」は、同時に「経営状況分析」(Y点)の申請にも必要となります。
X2評点の重要性
X2評点は、P点(総合評定値)の算出において、約15%のウェイト(比重)を占めています。
工事の信頼性…財務状況が健全であれば、工事途中で資金難に陥るリスクが低いと判断されます。
点数アップ戦略…X1(完成工事高)のように急激に伸ばすことが難しいため、日々の経営努力(利益の確保、借入金の削減など)が着実に点数に反映される項目です。
つまり、X2評点が高い企業は、「経営が安定しており、資金力と収益力があるため、安心して公共工事を任せられる」と評価されることになります。

経審の評価期間は「直前の営業年度の決算」で判断されます。決算前に財務の専門家と相談して、対策を立てておくことが、高得点を狙うコツです。
3. 技術職員数・元請完成工事高(Z):会社の技術力を数値化する!

技術職員数・元請完成工事高(Z)は、企業の技術力と施工能力を評価するための項目で、企業の質的な能力を測る上で非常に重要です。会社に在籍している技術職員の人数や、元請けとして手掛けた工事の実績を評価します。
主に以下の2つの要素から構成され、会社がどれだけ技術者を抱え、主体的に工事を完成させているかを数値化します。

会社に常勤として在籍している技術職員の人数と、その職員が保有する資格の種類や等級を評価するものです。
会社がどれだけの技術的人材を確保しているかを測ります。
人 数…技術職員が多いほど高得点になります。
資 格…1級施工管理技士、技術士、一級建築士などの高度な資格を持つ職員は、より高く評価されます。
これは、会社が過去2年または3年間に、元請けとして完成させた工事の金額の合計を評価するものです。
会社が自主的な施工管理能力と総合的な企画・指導能力を持っているかを測ります。
元請け工事は、下請け工事とは異なり、全体の工程管理や品質管理、発注者との折衝など、総合的な能力が求められます。そのため、元請け実績が多いほど、施工能力が高いと評価されます。
【技術職員数】
・技術職員名簿(経審様式)
・資格者証の写し(技術士、施工管理技士などの資格証明)
・健康保険・厚生年金保険被保険者標準報酬決定通知書など(常勤性を証明するため)
【元請完成工事高】
・工事種類別元請完成工事高(経審様式)
・工事請負契約書の写し(元請けとしての契約を証明)
Z評点の重要性
Z評点は、P点の算出において約25%という高いウェイト(比重)を占めており、X1(完成工事高)と並んで非常に大きな影響力があります。
Z評点を高めることは、「技術者を育成・確保する力」と「工事を主体的に管理・遂行する力」があることの証明となり、公共工事の発注者に対して大きな信頼を与えることになります。これは、特に技術力が重視される大規模な工事や、総合評価方式の入札において、他社との差別化を図る上で決定的な要素となります。

技術職員の評価には「監理技術者」や「主任技術者」の要件を満たす職員が該当します。資格を持った職員は、会社の大きな財産ですよ!
4. その他(W):企業の社会性が評価される!

その他(W)とは、建設業の経営事項審査(経審)において、企業の社会性や信頼性、安全性といった、財務諸表や技術力だけでは測れない定性的な側面を評価する項目です。労働災害の発生状況や、建設業退職金共済制度への加入状況など、企業の社会的な取り組みや社会的責任を果たす姿勢が点数化されるため、近年その重要性が増しています。
主に以下の要素で構成され、企業の法令遵守や雇用・安全への取り組みが評価されます。

従業員の労働環境や将来の安定に関する取り組みを評価します。
建設業退職金共済制度(建退共)…建退共への加入状況や履行状況が評価対象となります。
社会保険の加入…健康保険、厚生年金保険、雇用保険の加入状況が評価されます。法定加入が義務付けられているため、未加入や不適正な加入は大幅な減点対象となります。
企業の安定性と継続性を評価します。
経理処理の適正さ…会計監査の有無や、公認会計士・税理士などの専門家による監査を受けているかなどが評価されます。
営業年数…建設業許可を取得してからの営業年数が長いほど、企業としての安定性があるとして加点されます。
過去に建設業法や労働安全衛生法などの法令に違反し、処分を受けていないかを評価します。
過去の行政処分や営業停止処分の有無が確認されます。違反がある場合は大幅な減点となります。
企業の安全衛生管理体制と災害防止への取り組みを評価します。
労働災害の発生状況…過去の労働災害の発生頻度や程度に基づいて点数が変動します。災害が少ないほど加点されます。
【労働福祉の状況】
・健康保険・厚生年金保険の納入告知書兼領収証の写し(加入状況を証明)
【建設業退職金共済】
・建設業退職金共済事業加入履行証明書
【労働災害の状況】
・労働保険料の納入証明(概算・確定申告書、領収証など)
【営業年数】
・建設業許可証明書(許可取得日を証明)
【法令遵守の状況】
・違反がないことを示す申立書など
経審の申請はこれらの書類に加え、各自治体独自のチェックシートや確認資料が必要になるため、提出書類の数は膨大になります。
書類の正確性記載された内容と添付書類が完全に一致していることが求められます。
書類の有効性資格者証などの有効期限が切れていないか、保険料の未納がないかなどが厳しくチェックされます。
以上の2点が申請書類の作成にあたって重要なポイントともいえるでしょう。
W評点の重要性
W評点は、P点(総合評定値)の算出において約15%のウェイト(比重)を占めています。
W評点が高い企業は、「法令を遵守し、従業員を大切にし、安全対策に真摯に取り組んでいる社会的責任を果たしている優良企業」として評価されます。これは、公共工事において企業の信頼性を判断する上で、非常に大きな役割を果たします。

会社の社会的信頼度が問われる項目です。社員の健康や安全を守る取り組みは、経審の評価だけでなく、会社の未来にも繋がります。
なぜ、あえて「現状維持」を選ぶ選択肢もあるのか?

経審の点数は高ければ高いほど良い、と思われがちです。しかし、会社の経営方針によっては、無理に点数を上げる必要がないケースも存在します。
例えば、以下のような場合は、現状維持が最適な選択肢となることがあります。

地域密着型で、自社の技術力や得意分野に合った小規模な公共工事を安定的に受注できている場合、無理に大きな工事に挑戦するためのコストやリスクを背負う必要はありません。
点数を上げるために大規模な借入れをしたり、人員を無理に増やしたりすると、経営に負担がかかる可能性があります。自社の規模や体力に見合った経営を続ける方が、長期的な安定につながることもあります。


経審の点数は、あくまで経営戦略を実現するためのツールです。会社の得意分野や経営方針に合わせて、最適なP点を目指すことが大切ですよ。
経審は会社の将来を考える「羅針盤」

経審は、単なる手続きではなく、自社の強みと弱みを客観的に知るためのツールです。
点数アップを目指すのか、現状維持で安定をはかるのか。P点を構成する各項目を理解し、自社の経営方針に合わせてどう活用するかを考えることが、公共工事への道を拓く鍵となります。
先にも説明しました通り、P点を構成する5つの要素(X1, X2, Y, Z, W)のうち、Y点(経営状況分析)だけは、国土交通大臣の登録を受けた「登録経営状況分析機関」に先に申請し、分析結果通知書を受け取る必要があります。このように自社だけでは作成できないプロセスであるため、今回この記事ではY点について詳しく触れませんでした。

そのY点について、次回「経審の隠れた要!Y点の仕組みと財務改善の裏ワザ」というタイトルで解説します。経審を受けようと検討されているかた、経審についての知識を得ておきたいとお考えの方、是非ご覧になってみてください。

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